ニカラグア素朴画運動

「メイド・イン・ニカラグア」は粗悪品

 有名な社会学者であるノーム・チョムスキー博士は、80年代に行われたインタビューの中で次のように語っている。

 「ニカラグアは国家になったことがない。むしろ次々にやってきた金持ちやエリート集団の手によって侵略され、略奪されたところだ。国家としての意識がなく、ニカラグア人としての誇りがなかった。あってもわずかにすぎなかった。おそらくサンディニスタ革命によって、ニカラグアは初めて国家として成立した」

 サンディニスタ革命勢力が政府を樹立する以前の時代には、「輸入品」とはよいものを意味し、「メイド・イン・ ニカラグア」とは安くて、質の悪い品物と理解されていた。

 当時のニカラグア人は、農民が血と汗を額からしたたらせながら高価な木材に根気よく刻み、磨いた装飾品よりも、外国で作られたブランドのプラスティック玩具を好んでいた。

 しかし革命によってこれらの価値観が逆転した。民衆の苦労が認められるようになったのだ。

革命はまず第一に、ニカラグア人に誇りを取り戻させた。自分たちのもつ文化、伝統、音楽、踊りに自信を持たせ、さらに新しい社会――人間として尊重される社会――の建設運動に若者を駆り立てた。

画家をソレンティナーメ諸島から各地に派遣

 ニカラグアの著名な詩人であり、彫刻家でもあるエルネスト・カルデナル神父は文化大臣になって、その運動の先頭に立った。

 カルデナル神父の素朴画運動普及法は、ソレンティナーメ共同体のアーティストたちを各地に派遣し、人々に表現の方法を教えることだった。そのうちに、人々の間で絵画を通して自由な国になった喜びや個人的な感情を表現できる人が――特に若者が――各地に現れるようになった。

 派遣されたアーティストたちの一番の目的は、美術の才能を持ちながらもそれを活かしていない、または、正規の美術教育を受けていないために絵画が評価されていない若者を発見し、自信を与えることだった。

 このようにして素朴画の画家たちは、自分たちの絵画の価値を発見した。

自由と独立を勝ち取った喜びを表現

 当時のサンディニスタ革命政権は、民衆の文化発展を積極的に奨励した。

 1980年代にニカラグアは近代絵画の分野で、他国に劣らないほどの伝統をすでにもっていた。もっとも著名なアーティストであるアルマンド・モラレスの作品は世界的に知られている。その他に知られているアーティストは、フェルナンド・サラビア、アレハンドロ・アレステグイ、オルランド・ソバルバッロ、レオネル・バネガス、アルノルド・グイエンである。国際的にも、国内的にも美術の腕が高く評価されている画家はまだたくさんいる。

 だが、素朴画はそれとは違う。素朴画は、ニカラグアが勝ち取った自由と独立を讃えるために生まれた美術であるかのように見える。

 民衆に絵の具とキャンバスが渡され、彼らが体験した自由の喜びを素直に描き始めた。素朴画は民衆がどのようにして現実を見て、感じているかを表現しているのだ。民衆が望む世界、平和で調和のとれた世界を描いている。

 素朴画の画家たちは自然を破壊し、乱発して、環境問題を引き起こしている心ない利益中心の考え方しかもたない先進国の人々がいることを 忘れていない。素朴画の画家たちはそうした人々の生き方を否定し、あるべき世界の姿を描き続けている。

 素朴画がもっとも受け入れられている国が、米国、ドイツ、日本であることは注目に値する現象だ。その中で特に日本の場合、素朴画普及に ニカラグアの友人が大きな役割を果たしてくれている。ここでステファニ神父と日本の協力者に感謝の意を表したいと思う。

ミゲル・デコスト神父
ニカラグア、マナグアにて
1999年3月19日
『ニカラグア素朴画の歩み』より

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